ハスキー

豊橋市、鷹丘校。

授業が終わって、家に帰ると、マンションの廊下でセミがひっくり返っている。

まあ、この時期は毎日のようにそんなことがある。

僕は人間以外の生物に対して総じて親切なので、

そういうセミを片っ端から拾ってやります。

生きていれば外に連れ出して木にはりつけ、死んでいれば土に横たえる。

ただこれ、厄介なのは、拾い上げるまでは生きているのか死んでいるのかわからないんだよね。

生きているならもう少し事前にジタバタしていてほしいんだけど(中にはそういう子もいる)、

死んだようにじっとしているのに、つかんだ瞬間「びぃぃぃぃぃ!!」って叫ぶの、あれ、本当にやめてほしい。

こちらも無償でやっておりますので、頼みます。

そういうことで、

「急に叫ぶなよ、助けてやるんだから、恩人をびびらせるようなことはやめろ」と心で呟きながら、

そっと手を伸ばすと、セミは弱々しく指にしがみついてきた。

生きてた。

夜の光を背景にしたセミは何だか別の生き物みたいで、僕はしばらく震える羽を眺めていた。

セミとか蛍とか、はかない命と人は言ったりするけれど、当の本人はどんな感じで生きているのだろう。

土の中で数年、地上で数週間、それってどんな感じなんだ、マジで。

僕はセミの目をのぞきこんだが、わかるわけがなかった。

やがて、セミは最後の力を振り絞るようにして僕の指先を蹴り、夏の夜の中に消えた。