ハスキー

豊橋市、開拓塾、二川校。

僕の住んでいる地域はクマゼミ(シャーシャーシャーシャー)ばかりが鳴くのだが、

二川校の方面に行くと、かなりツクツクホウシが鳴いている。

先日、夜にコンビニに立ち寄り、レジで会計を済ませた後のこと、

店員のお姉さんが不意に「ぎゃあ」と悲鳴を上げた。

店内にツクツクホウシが迷い込んできており、それがレジ横の買い物カゴにとまったのだった。

数少ない特技がセミである僕は、「いいですよ」とよくわからないことを言いながらツクツクホウシをそっと捕まえた。

お姉さんは「すごいですね」と褒めてくれたが、今思えば褒めてくれたのか引いていたのかわからない。

僕はツクツクホウシを手にのせたまま、とまらせてあげられそうな木を探してちょっと歩いた。

日頃から思っていた。

セミは、とがった口を堅い木に突き刺して樹液を吸うわけで、本気になれば人の皮膚にだってそれは刺さるんだろうけど、何か刺されないよな、と。

というのも、僕は夏場、マンションの廊下でジタバタしているクマゼミを拾って木のところに送り届けるという善行をちょくちょく積んでいるので、その度にセミを手にのせるけど、刺されたためしがなかった。

セミも馬鹿ではない、樹木かそうでないかくらいわかるのかもしれぬ、などと思っていた。

甘かった。

ツクツクホウシ、めちゃ刺す。

セミの種類の違いによるものなのか、個体差なのか、今まで僕の運がよかっただけなのか知らないが、

とにかくこいつは、何度やめろと言っても刺す。

僕は「いててて」と呟きながら木を探したが、いっこうに見つからず、諦めてツクツクホウシを空にぶん投げた。

セミはアクロバチックに空中で羽を広げてはばたき、夏の終わりの夜空に消えた。

僕の手の平にいくつかの微妙な痛みを残して。