ハスキー
今日は、二川校の中2に「平家物語」の授業。
授業をやりながら、何気なく聞いたのだけれど、
「耳なし芳一」の話、現代の少年少女には、意外と知られていない!
ということで、本日は、
「平家物語」と関係の深い「耳なし芳一」の話を、
主に中2の生徒用に紹介します。
文体はちょっと現代風にアレンジしましたが、ストーリーはそのままです。
【耳なし芳一】
昔、芳一という琵琶法師(授業でやったやつね)がいた。
芳一は目が見えなかったが、「平家物語」の弾き語りがものすごく得意だった。
ある夜、寺に住む芳一のところに、一人の武士が訪れて、芳一を誘う。
カモン、芳一、と。
「高貴な方」のために、うちに来て琵琶を弾いてくれ、と。
芳一はその武士について行き、
リクエストに応えて平家物語の「壇ノ浦」のパートを演奏する。
目の見えない芳一に詳しい様子はわからないが、
大勢の人々が芳一の周りで泣きまくっている。
俺の平家物語でこんなに感動してくれるのか、と芳一は驚いた。
それから芳一は、毎晩のようにその屋敷で演奏するようになるが、
このことは誰にも言うな、と武士に口止めされる。
一方、芳一が暮らす寺の和尚は、
「芳一、毎晩どこ行ってんだよ」と不審に思い、
寺男(寺の雑用をする人)に後をつけさせる。
すると、夜中、芳一は一人で平家の墓地に行き、
無数の人魂に囲まれて「平家物語」を演奏し始めた。
降りしきる雨の中で。
寺男は思った。
「マジかよ芳一」と。
翌日、和尚に問い詰められた芳一は、事情を打ち明ける。
それを聞いて、和尚は言う。
芳一よ、お前を誘っているのは、平家の怨霊だぞ、と。
お前の演奏に感動した?
馬鹿言うな、あいつらが「壇ノ浦」で泣くなんて当たり前だ、
あいつらにとって「平家物語」は、自分が死んだ物語なんだから。
このままでは、お前は平家の音量、じゃなかった、怨霊に連れていかれるぞ。
私がついていれば守ってやれるだろうが、今夜はどうしても外せない法事がある。
よし、お前の全身にお経を書こう。
そうすれば、亡霊からはお前の姿が見えなくなるはずだ。
いいか、亡霊たちがお前に何を言っても、しても、絶対に答えるんじゃない。
そうして、和尚は芳一の全身にお経を書く。
しかしこのとき、和尚は芳一の耳にだけお経を書き忘れる。
読者は思う。
「マジかよ和尚」と。
その夜、芳一が寺の一室に一人で座っていると、
いつものように武士=怨霊が迎えに来る。
だが、全身にお経を書かれた芳一の体は、亡霊からは見えない。
怨霊は芳一の名を呼びながら探し回るが、芳一はじっと動かず、声も出さない。
ついに亡霊は、唯一お経の書かれていない芳一の耳だけを見つける。
「芳一の姿がないならば仕方がない。せめてこの耳だけでももらっておこう」
平家の怨霊はそう言って、芳一の耳を引きちぎる。
それでも、芳一は身動きひとつせず、声も立てなかった。
明け方になって和尚は帰り、両耳をもぎとられた芳一を発見した。
和尚はお経を書き忘れた過ちに気づき、芳一に言った。
「ごめん」と。
読者は思った。
「マジかよ和尚」と。
その後、平家の怨霊は二度と現れず、芳一の耳の傷も無事に癒えた。
芳一の恐怖体験は世間に広まって、やがて琵琶の腕前も評判になった。
彼は「耳なし芳一」と呼ばれ、屈指のビワリストとしての名声を得た。
めでたしめでたし。
マジかよ芳一。