ハスキー
昔、開拓塾にまだ入試プレがなかった頃の話。
二十年くらい前の一月、志望校の判定が出る最後の模試が終わって、
新卒の僕は、自分の担当している校舎の子たちの模試結果を見ていた。
その中の一人、豊橋本校、前芝中に通うミキという女の子の得点を見て、がく然とした。
悪すぎる。
授業中の出来からすると、信じられない。
何でそんなことになったのか、わからなかった。
だから、当時の校長に「面談させて下さい」と言って、次の通常の授業後、ミキと面談して、話を聞いた。
彼女はとにかく緊張しがちで、本番に弱かった。
模試のときも、ガチガチになってしまって、頭が真っ白になってしまった、と。
どう考えても頑張っていた。
内申も志望校に対して十分にあった。
普通にやれれば、合格のはずだった。
でも、その普通が、遠かった。
僕は塾長に相談した。
豊橋本校にこういう子がいるんですけど、どうしたらいいですか、と。
塾長は、一新卒の抽象的な相談に、真摯に答えてくれた。
本番、何に注意して、どうメンタルをコントロールすればいいか、
その大枠と、パニックになりそうになったときの具体的な対処法を、丁寧に伝えてくれた。
そこで塾長が伝えてくれたことが、今では中3生の入試必勝法「勝利へ」の一部になっている。
それから、塾長は言った。
授業の後に、一人だけ残して、一教科、入試形式のテストを受けさせてあげよう、と。
そこで成功すれば、自信になる。
一回じゃ決められないかもしれないから、出来れば三回くらい。
そのテストは、箸本君が作ればいい、と。
繰り返し、その頃、まだ入試プレというものはなかった。
そんな言葉自体がなかった。
翌週、ミキは誰もいなくなった教室で、たった一人の入試プレを受けた。
僕は教室にいて、祈るような気持ちで彼女が解き終わるのを待っていた。
塾長の作戦は、当たった。
ミキはそのテストを通じて少しずつ、とりきることの自信を深めていった。
模試で大失敗した国語は、入試本番、何とか17点で踏みとどまった。
合格発表の日、豊橋本部に電話があった。
「箸本先生いますか?」という電話だったそうだ。
「ミキだら?」と電話をとった岡崎先生が言った。
「箸本先生いますか?」と電話の主は繰り返した。
いや、名乗れよ(笑)。
まあ、それはいい。
合格したことが、全てだった。
毎年、入試プレの会場で、たくさんのカイタク生の前に立つ度に、ミキのことを思い出す。
こんな素晴らしいものを塾長が作ってくれたぜ、と。
あのとき、君がたった一人で受けた入試プレが今、カイタク生の強烈な武器になっているんだ、と。
入試プレも、あと一回。
本番で、本来のみんなの姿が出せるように。
その力は、絶対に上がってきた。
カイタク生のみんな、どうかとりきって。
とりきることだけ、考えて。
それで十分、合格に届く。
頑張ってね。